「退職給付金」は詐欺?怪しいと言われる理由と実在する公的制度を社労士が解説

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社労士警告
「退職給付金」という名称の公的制度は、日本に存在しません
「社会保険給付金」「傷病手当金サポート」「給付金サポート」も同じです。いずれも公的制度の正式名称ではありません。
「退職するだけで〇〇万円もらえる」「給付金を最大化できる」という広告は、誤解を招く表現や悪質なビジネスの可能性があります。

📋 この記事のポイント

  1. 「退職給付金」という公的制度は存在しない。会計用語の「退職給付」とは別物
  2. 実在するのは雇用保険の基本手当、健康保険の傷病手当金など。正式名称と条件がある
  3. 全国の労働局・ハローワークが一斉に注意喚起している
  4. 業者が狙っているのは、離職理由の区分と傷病手当金の組み合わせ
  5. 不正受給の代償は最大「3倍返し」。問われるのは業者ではなく本人
  6. 相談先はハローワーク・188・社労士。いずれも無料

「退職給付金」という制度は存在しない

結論から申し上げます。「退職給付金」という名称の公的給付制度は、日本に存在しません。

簿記や企業会計には「退職給付」という勘定科目があります。退職給付引当金、退職給付費用といった形で、企業が将来支払う退職金等の債務を計上するための用語です。ただしこれは企業側の会計処理の話であって、個人が退職時に受け取る公的給付の名称ではありません。

「退職給付金」は、その会計用語に、いかにも公的制度らしい語感を継ぎ足した造語です。厚生労働省・ハローワーク・日本年金機構・各都道府県の労働局、いずれの公式サイトを確認いただいても、この名称の制度は出てきません。

広告では「社会保険給付金」「傷病手当金サポート」「給付金サポート」といった呼び方も使われます。名前が違うだけで、指しているものは同じです。

全国の労働局・ハローワークが注意喚起しています

この問題は一部地域の話ではありません。東京・北海道・神奈川・山梨・佐賀・沖縄など、各地の労働局とハローワークが同一趣旨の注意喚起を公表しています。

【ハローワーク那覇】制度名そのものを否定

「退職給付金がありますとうたう失業保険申請サポートサイトにご注意ください」という見出しで、退職給付金という名称の制度は存在しないと明記されています。
出典:厚生労働省 沖縄労働局 ハローワーク那覇(2026年3月)
ページを見る(厚生労働省サイト)

【東京】虚偽の申告を促す事業者への警告

申請サポートを利用した場合であっても、自分の状況をありのまま正確に申告して正しい手続で給付を受けるように、と呼びかけられています。虚偽の申告をした場合は不正受給になる、という点も明示されています。
出典:東京労働局・東京ハローワーク
「失業保険の給付額等を増やすことができる」とうたう申請サポートにご注意ください!
失業等給付に関する虚偽の申告を促す事業者等にご注意ください(PDF)

【佐賀労働局】高額な違約金と不正受給の誘導

解約時に高額な違約金を請求された、不正受給を促すようなサポート内容だった、といったトラブルが全国的に発生していると説明されています。
出典:佐賀労働局
「失業保険の金額・期間を増やせる」とうたう申請サポートにご注意ください

退職後に受けられる「実在する制度」とは

退職した際に活用できる公的な給付制度は存在します。ただし、それらには正式な名称と条件があります。

① 雇用保険の基本手当(いわゆる「失業給付」「失業保険」)

雇用保険に加入しており、離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上ある場合に受給できます(特定受給資格者・特定理由離職者は離職前1年間に6か月以上)。給付日数は離職理由・年齢・被保険者期間によって異なります。ハローワークへの求職申し込みと、定期的な求職活動が受給条件です。

② 傷病手当金(健康保険)

在職中に病気やケガで働けなくなった場合に支給されます。退職後も条件を満たせば継続して受給できます。この「継続」の部分が、後述する業者スキームの中核です。

③ 就業促進手当・再就職手当など

基本手当の受給中に早期再就職した場合に支給される手当があります。これも自動的にもらえるものではなく、ハローワークへの申請が必要です。

💡 共通点:これらはいずれも「退職給付金」とは呼びません。また、特定の民間業者を経由しなければ受け取れない制度は一つもありません。手続きはすべてご自身で、または社会保険労務士・ハローワークに相談して行えます。

業者が狙うのは「傷病手当金 → 失業給付」の組み合わせ

では、業者は具体的に何を「サポート」しているのか。多くの場合、その中身は実在する制度の組み合わせです。

資格喪失後の継続給付

在職中に傷病手当金を受けていた方が退職した場合、次の条件を満たせば、退職後も引き続き受給できます。

  • 退職日までに、継続して1年以上の健康保険の被保険者期間があること(任意継続被保険者としての期間は含みません)
  • 退職日に傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあること
  • 退職日に出勤していないこと

支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。傷病により働けなかった期間について受給期間の延長を申請しておけば、その後に基本手当へ移ることもできます。

もう一つの狙いは離職理由の区分

雇用保険では、離職理由によって取り扱いが変わります。

  • 特定理由離職者(正当な理由のある自己都合退職。心身の障害、疾病、負傷などを含む)に該当すると、原則2か月の給付制限がかからず、受給資格も離職前1年間に被保険者期間6か月以上で足ります。
  • 特定受給資格者(倒産・解雇等の会社都合。上司や同僚からの故意の排斥、著しい冷遇や嫌がらせによる離職も含まれます)に該当すると、給付制限がかからないうえ、所定給付日数も年齢と被保険者期間に応じて手厚くなります。

問題は「要件を満たすように見せる」行為

これらはすべて正当な制度です。要件を満たす方が制度を使うことに、何の問題もありません。

問題は、要件を満たしていない方を満たしているように見せる行為です。傷病手当金は労務不能であることが支給の前提であり、その判断の根拠になるのが医師の証明です。だからこそ、一部の業者は指定のクリニックや医師の受診を勧めてきます。制度の説明をしているだけなら、受給額を増やすことなどできないからです。

体調に問題がないのに受診を勧められたら、その時点で引き返してください。

国民生活センターも警告:「申請サポート」業者のトラブルが急増

「失業保険の給付額等を増やすことができるとうたう申請サポートに注意!」
国民生活センターに寄せられた相談件数は、2021年度42件・2022年度54件・2023年度113件・2024年度217件と急増。2025年度も10月末時点ですでに216件に上っている。
出典:独立行政法人 国民生活センター(2025年12月3日発表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20251203_1.html

寄せられたトラブル事例

⚠️ 実際に報告されているトラブル

  • 申請サポートを依頼したが、期待したほど受給額が増えなかった。にもかかわらず、高額な報酬を請求された。
  • 途中解約を希望したが、業者が認めなかったり、高額な違約金を請求されたりした。
  • 精神的な不調がないにもかかわらず、指定クリニックで受診するよう指示されるなど、不正受給を促すかのような誘導をされた。

不正受給の代償は「3倍返し」

とくに3つ目のトラブルは深刻です。不正行為があったと認定されると、その日以降の失業等給付は一切支給されません。すでに受け取った分の返還が命じられ、さらにそれとは別に、不正に受給した額の2倍に相当する額以下の納付が命じられます。合わせて最大で3倍。悪質な場合は刑事罰の対象にもなります。

「業者に言われたから」は免責事由になりません。虚偽の申告は、離職票への記載、ハローワークでの申告、医師の証明といった書面に残ります。後から問われるのは、業者ではなく申請した本人です。

なぜ「退職給付金」という言葉が使われるのか

「失業給付」や「雇用保険の基本手当」という正式名称より、「退職給付金」という言葉の方が、漠然とした期待感を抱かせやすい。

広告では「国からもらえる」「申請するだけ」「最大〇〇万円」といった表現が使われます。これらは虚偽とは言い切れない部分も含みながら、重要な条件や制約を意図的に小さく・わかりにくく表示する手法です。

なぜ正式名称を避けるのか(筆者の推測)

ここからは筆者の推測です。

広告が正式名称を使わないのは、正式名称を出すと読者が公的サイトを調べてしまうからだと考えられます。「失業保険」という俗称でも同じです。調べれば、ハローワークで自分で手続きできること、民間業者を通す必要がないことがすぐに分かる。だからこそ、検索しても公的情報に行き着かない言葉が必要になります。

造語である以上、公的機関の解説ページは出てきません。検索結果を業者のサイトで埋めることができる。それが、この言葉が使われ続けている理由だと考えています。

❌ こんな広告・勧誘には要注意

✗ 「退職給付金」「社会保険給付金」「特別給付金」など、公式制度にない名称を使っている

✗ 「申請するだけで○○万円」と具体的な金額を保証するように見せている

✗ 「うちを使えば給付額を増やせる」と特別なサービスのように宣伝している

✗ 「まずは無料LINE登録」「無料相談」を入り口に、後から高額費用を請求する

✗ 指定のクリニックや医師の受診を勧めてくる

✗ 事業者の名称・所在地・代表者名が明示されていない

「サポート」の中身によっては、社労士法違反の疑いがあります

健康保険や雇用保険の申請書等の作成、提出手続の代行、事務代理は、他人の求めに応じ報酬を得て業として行う場合、社会保険労務士法27条により、社会保険労務士および社会保険労務士法人以外の者には認められていません。同法には罰則も置かれています。

制度の一般的な説明や情報提供にとどまるのであれば、この業務制限には当たりません。しかし「サポート」と称しながら、実質的に申請書の作成や窓口への提出代行にまで踏み込んでいる場合には、同条違反の疑いが生じます。

契約前に確認していただきたいこと

▶ 「書類はこちらで作成します」「窓口には代わりに行きます」と言われた場合、その相手が社会保険労務士として登録しているか。社会保険労務士には登録番号があり、全国社会保険労務士会連合会のサイトから検索できます

▶ 報酬の算定方法(受給額に対する割合か定額か)、支払時期、中途解約時の取り扱いが、書面で明示されているか

▶ 「社労士監修」「弁護士監修」という表示だけで信用していないか。監修の範囲は表示からは分かりません

社労士からのアドバイス:正しい相談窓口へ

退職後の給付や手続きについて不安な方は、以下の公的窓口に相談してください。費用は一切かかりません。

🏢 ハローワーク(公共職業安定所)
失業給付の手続き、求職活動のサポート。全国の窓口一覧は厚生労働省サイトから。

📞 消費者ホットライン:188(いやや!)
業者とのトラブル・契約に不安を感じたらすぐに。最寄りの消費生活センターにつながります。

⚖️ 社会保険労務士への相談
雇用保険・社会保険の手続き全般について、専門家として相談や個別対応が可能です。全国社会保険労務士会連合会から近くの社労士を探せます。

なお、申請した給付について不支給の決定を受け、その判断に納得できない場合も、業者に頼る必要はありません。社会保険審査官への審査請求という正規の手段があります。詳しくは【被扶養者】社会保険審査官に対する不服申立てで解説しています。

まとめ

改めて強調します。「退職給付金」という公的制度は存在しません。

退職後に受け取れる可能性のある公的給付は実在します。ただし「雇用保険の基本手当」など正式な名称を持ち、それぞれに条件があります。特定の民間業者を使わなければ受け取れない制度は一つもありません。

国民生活センターへの相談は年々増え、全国の労働局が注意喚起に踏み切りました。中には不正受給を促す悪質なケースも報告されています。不正受給と認定されれば、代償を負うのは申請した本人です。

気になる広告に個人情報を入力する前に、ハローワークか社会保険労務士にご相談ください。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的判断や申請結果を保証するものではありません。最終更新:2026年7月26日

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